日本教育催眠学会 理事長ご挨拶


秋田大学 教育文化部教授
鶴 光代


 日本教育催眠学会は、昭和50年5月に設立されました。
 以来、本学会は、設立趣旨の「教育催眠研究の推進・普及・向上を図ること」を目指して、活動してきました。
 研究の推進や向上についていえば、毎年、研究発表の大会を開き、その論文集を作成して会員相互の研修を積み、また、平成15年度からは、機関紙として「教育催眠学研究」を発刊して研究成果を世に問うことをしています。
 これで十分とはいえないまでも、設立以来、教育催眠の研究分野は徐々に拡がり、新しい提案とその検討がなされ、教育活動に資する成果をあげてきたといえます。

 しかしながら、教育催眠の普及ということになるとなかなか思うようにいかず今日まで会員が最も苦慮しているところといえます。
 普及の難しさの大きな要因としては、よくいわれるところの催眠に関する世間の誤解と偏見が挙げられます。
 テレビで見るショーとしての催眠は、観客を驚かせ楽しませることを目的とした観客のための催眠であるから、被催眠者のために行う催眠とはまるで違うものといえます。
 そうであるにもかかわらず、ショー催眠を見た人は、それを催眠そのものとして受け取り、怖い、恥ずかしい、いかがわしいなどの感情を抱いていきます。
 また、一方で、世間でいう言葉には、催眠商法といった呼び方に端的に現れているように、人を思い通りに操るという意味合いが付け加えられていて、人に警戒心や不信感を抱かせやすい側面があります。

 こうした誤解や偏見が生じるのは、催眠現象にその源があるのではなく、催眠を用いる人の態度に問題があるからにほかなりません。
 以前は、こうした催眠使用の態度の問題は、教育や医学、心理学の専門家といわれる人にも見られることがありました。
 それは、例えば、専門家が催眠を用いることで万能感に陥り、被催眠者中心ではなく、催眠者の権威的欲求の元での催眠を展開していくということでした。
 教育催眠を普及させていくには、世間の誤解、偏見を嘆くのではなく、上記のような状況をどう打開していくかを真剣に考えなくてはなりません。
 これまでに、即効のあ名案はありませんでしたので、ここでいえるのは、会員一人ひとりの地道な実効ある努力ということになります。

 あるスクールカウンセラーは、心理的要因で腹痛や、やる気のなさを起こしている児童に会って教育催眠が最適と考えた時、次のような段取りを取りました。
 まず、定期的な職員研修の一コマを担当させてもらい、そこで、教育催眠の意義を説明し、催眠誘導の実際を実演して見てもらいました。
 被催眠として協力してくれた2名の教師が、「不思議な感じだったが、気持ちよくリラックスした」や「いろいろなイメージが湧いてきて、自分が伸び伸びと活動できた」という体験をしたこともあって、教師から教育催眠を肯定的に理解してもらうことができたということでした。
 私は大学に席がありますので、心理学の講義で学生が、催眠は正常な心理現象であることを体験的に学べるように行っています。
 そうすることで、教育催眠への理解がわずかであっても進むと考えています。

 催眠者の態度ですが、先に述べた万能感に駆られた行動は、その時点で当の本人に気付かれてはいないのが殆どです。
 学会の機能は、互いに切磋琢磨して研究を進めるということの他に、技能や倫理に関して集団内自己規制が働くことにあると考えます。
 幸いにして、本学会では、教育催眠実践のための資格について検討が進められています。
 こうした資格は、自己規制の一環として大いに機能することと考えます。

 被催眠者に不利益を生じさせない、そして、社会に誤解を与えないことを肝に銘じながら、昭和50年からの長い歴史を持つ本学会の使命として、教育催眠の普及に、これから更に努力していきたいものと考えます。

                   ――――――機関誌 「教育催眠学研究」第2巻 より抜粋